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独立した2基のADコンバータを備えた
新世代のデジタル・マルチメータ

株式会社エーディーシー

タケダ理研工業の技術を継承し、アドバンテストの汎用計測器の開発・製造を行ってきた株式会社エーディーシー。今年4月からADCMTのブランドで製品をリリース、その第一号であり、デジタル・マルチメータの集大成といえる『7352A/E』について、開発部長 鈴木直司氏、DMMグループ 課長 柴崎晴之氏に話を聞く。

開発部長 鈴木 直司
開発部 DMMグループ
課長 柴崎 晴之
ADCMTブランドで新スタート

 同社のメインとなる計測器は、デジタル・マルチメータと直流電圧/電流源、光パワーメータとエレクトロメータ、絶縁抵抗計である。これらは、前身のタケダ理研工業から変わりなく設計、製造を続けているもので、AD/DAコンバータ、増幅器の技術を中核とした高精度の計測技術にフォーカスした製品を開発してきた。この中のデジタル・マルチメータは、アドバンテストの子会社のころに4桁から8桁の製品シリーズをすでに開発し発売している。特に6桁を超える精度の計測器は国内ではほかになく、国外でも数社のみである。
「25年の歴史がありますが、今後はさらに飛躍させるため、まず製品をエーディーシー独自のモデルにリニューアルし、マーケットの要求にマッチした機能、性能の向上を図っています。またコストを下げ、売り上げを伸ばすように努力しています。マーケットとしては圧倒的に国内が多いので、今後は海外への進出も考えています」と鈴木部長は語る。
 アドバンテストの子会社のときは販売をすべてアドバンテストが行っていたが、独立したことで販売機能を強化していくという。それと同時に、今年の4月まで同社の製品はアドバンテストのブランドであったが、4月からはオリジナルのADCMTを立ち上げた。今回紹介するデジタル・マルチメータ『7352A/E』から新しいブランドでリリースしている。

「7352A/E デジタル・マルチメータ」の開発背景

 7352A/Eの前身であるR6452Aを開発したのは今から15年ほど前のことで、その当時、ほかの機種を含めると10モデルくらいのマルチメータの製品ラインナップを揃えていた。だが、その後しばらく開発できない時期もあり、新製品の市場投入ができない状態が続いた。一方、海外メーカーからは続々と新製品が出ていたことに刺激され、独立を機に製品ラインナップをリニューアルしようということになった。「アドバンテストから独立する直前に一新する計画を立て、独立と同時にスタートしました。そして6桁、5桁とトータル4機種を順次リリースしていき、今回紹介する7352シリーズはリニューアル計画の最後に当たります」と鈴木部長は語る。
 デジタル・マルチメータの一般的な市場価格としては、以前なら6桁の高精度な製品で35万円くらいしていたのだが、10年ほど前には海外メーカーから10万円台の低価格機種が市場に投入されていた。それに対抗できる製品を作ろうと、約4年前にリニューアルを開始した。まず、基本となるADコンバータのゲートアレイを再設計し、それを使って5桁から8桁まで対応できる製品を最初に開発した。その計画の中で、マルチメータの新しいシリーズを立ち上げ、コストパフォーマンスで顧客に充分満足いただける6桁および5桁の製品をリリースしてきた。
 マルチメータの基本となるADコンバータのコンセプトは他社にはない独自のもので、積分時間を自由に変えられ、しかも、最高8桁まで対応できるようにした。この計画がスタートしたのは4年くらい前で、開発に着手したのはその1年後だという。ADコンバータの開発と同時に6桁デジタル・マルチメータも開発した。
 4桁のシリーズはこれまでもラインアップしていたが、最近では5桁の製品も安く作れるようになり、同社は4桁の開発から手を引き、5桁以上に専念しようと決めた。価格は、4桁と同等にし、2年前から5桁の低コスト製品を販売している。以前からあるシリーズで、2チャンネルのマルチメータがあり、これは、1チャンネルは5桁、もう一つは4桁という製品で人気があった。
 今回リニューアルされた7352A/Eは、両チェンネルとも5桁にした。これはチャンネルを切り換えるのではなく、ADコンバータを二つ搭載し完全に独立させて同時に二つの信号を測定できるようにしたものである。

 

 

デジタル・マルチメータ『7352A/E』

 

 

 

 


ADコンバータを二つ搭載するメリット

 同社は92年に設計したデジタル・マルチメータで最初にデュアル入力を搭載したが、その後、他メーカーもこれと同じような機能を持たせた機種をリリースし、デュアル表示は一般化された。「デュアル」を謳ったマルチメータは、海外メーカーの製品を含めていくつかあるが、これらの多くは表示が「デュアル」で、メイン表示とサブ表示となっていて、たとえば、交流電圧と周波数のように補助的な表示を行うものである。
 10年ほど前に開発した5桁と4桁のデュアル表示できるデジタル・マルチメータR6452Aは、二つの入力端子を持たせている。この機種はADコンバータを一つしか搭載しておらず、入力端子が二つあるので、差動入力でもう一つの入力端子の電圧を測るようになっている。この場合、グランドに対してはフローティングだが、AチャンネルとBチャンネルの間に電位を持っていると誤差の要因になってしまう。
 それに対し、7352シリーズの2チャンネル方式は完全に独立した測定系を備え、絶縁されている。AチャンネルとBチャンネル間も絶縁されているため、電流の違うところにも当たることができるのが特徴で2台のマルチメータで計測しているのと同じことになる。
 もう一つの大きな特徴として、2箇所の測定点を同期して測れるということが挙げられる。AチャンネルとBチャンネルそれぞれのADコンバータを同期して測定することができる。それぞれのADコンバータに対するディレイは個別に設定できるので、同期したまま時間をずらして測定することができる。
 一番大きな特徴は、高スループットである。R6452Aだと一つしかADコンバータがないので一度測定し、二つの表示をするには、チャンネルを切り替え、もう一度測定している。それに対して7352A/Eは二つのADコンバータを搭載しているので、同期して計測することができるだけでなく、切り替え時間がなくなるためスループットは2倍になる。
 柴崎氏は「7352A/Eの特徴を端的に説明すると、一つは測定の対象ポイントが別々の回路でも、2箇所同時に測定することができるということです。もう一つは、それを同時に、同じタイミングで測定することができる。
 以前のタイプは2台分の役割をしてはいましたが、完全な2台とは言えません。しかし、このシリーズは1台で完全に2台分の測定が行えます。これまでの機種は二つの表示ができるという意味の「デュアル」だったのに対し、この7352A/Eは2台分の測定が可能という意味で「TWIN Two-in-One」という表現をしています。オシロスコープではチャンネルが増え、多くの波形を表示できるようになりましたが、それを電圧計に応用したと考えるのが一番分かりやすいと思います」と話す。
 これまでADコンバータを2基搭載しなかったのには、部品とのコストの関係があったからであり、また、以前は部品自体が大きかったため、ADコンバータを二つも搭載すれば大型になってしまうということもあった。
 デバイスが進歩し、比較的小さく、値段も落ち着いてきたので可能になったのである。生産の立場から言えば、二つ測定するなら、同じものを2台使えばよいというのが今までの発想であった。しかし、同時に計測したいというユーザーの要望が高まったので、それに応えるかたちで同シリーズを開発した。マルチメータにADコンバータを2個搭載するというのは、単に二つ入れるだけではなく、測定回路をすべて分離しなくてはならない。絶縁し分離するのは、コストや構造設計が必要になるので簡単ではなかった。
 同社が2入力の機種を初めて開発し、これを使ったアプリケーションのユーザーはずっと使い続けてくれたという。その機種をユーザーの要望に合わせリニューアルしたのが7352A/Eである。同シリーズのメリットは、検査システムでは省スペースとスピード、設計・開発では同時に見られる表示が二つあるという点だ。「人間が計測器を見て評価をするときに、測定対象物と測定値を同時に見られるというのは重要です。そこで、この7352A/Eは両チャンネルに同じウエイトを持たせ、表示も大きくし見やすくしました」と柴崎氏は話す。

 

 

デジタル・マルチメータ7352A/E

システム構成

 

 

応用例‐DC/DCコンバータの評価

 

 

応用例‐電源回路の試験


高確度、同期、微少電流、システム構築で要求に対応

 これらの特徴をもつ7352A/Eは、ユーザーの様々な要求にも対応することができる。そのいくつかを挙げてみる。たとえば、Bチャンネル測定は、Aチャンネルとは絶縁分離されたもう一つの完全独立した測定系のため、Aチャンネルとの電位差の影響を受けず、Bチャンネルも5桁半で高確度測定が可能である。また、AチャンネルとBチャンネル間で電圧と電流、電圧または電流と温度、交流と直流などの異なる測定機能の高確度名動機測定も一台で計測できる。AチャンネルとBチャンネル両方に電圧・電流を測る端子を持たせることにより、Aチャンネルで電圧を測ってBチャンネルで電流を測る、あるいは、この逆もできるのである。
 同期測定では、Aチャンネル、Bチャンネルのファンクションの測定が可能である。誘導ノイズを除去する1PLCの測定速度でも同時に2ファンクションの測定データが取得でき、さらに、ファンクション切り替え時間がないのでスループットが大幅に向上する。
 マルチメータは電圧を測るのが主目的のため、微少な電流を正確に測ることができないのが一般的である。しかし、ユーザーが測りたい対象機器が、省エネで消費電力が小さくなっているため測定電流そのものも低くなっており、高精度に電流を測りたいというアプリケーションが増えている。ユーザーは電流を安定に測るだけでなく、微少な電流の測定も求めている。微少電流を正確に測ろうとすると、エレクトロメータのような計測器を使うのだが、これでは非常に高価になってしまう。
 同社のマルチメータには、今までもこれらの機能を盛り込ませていたのだが、同シリーズではユーザーの要望に応え、電流測定のダイナミック・レンジを大幅に向上させた。Aチャンネルでは2μAレンジで10pAまでの分解能を持たせ、2Aレンジまで持たせている。Bチャンネルでは10Aレンジ(100μA分解能)を持っている。
「これまで電子回路の電源電圧は5ボルトだったのに対し、最近では3.3ボルト、そして1.8ボルトと低電圧化が進み、その一方で電流は増えています。微少な電流を測りたいというユーザーから、大きな電流を測りたいというユーザーに対応するため、電流レンジの上層域も拡大し、10ピコアンペアから10アンペアレンジまでを測ることができるようにしました」と柴崎氏は話す。
 また、同シリーズはシステムアップも図っており、インタフェースはGPIBだけでなく、RS232、そしてUSBインタフェースの3つを標準搭載している。計測器の標準バスはGPIBだが、FAなどではシーケンサにRS232が使用されている。また低コストでシステムを構築するため、新たにUSBインタフェースを付けた。これにより、ケーブル1本でシステムを組みリモート制御することができるようになる。またUSBケーブルを使ってPCと簡単に接続できるというメリットだけでなく、ハブを使って複数台を接続することもできる。
 同シリーズは2台分の測定ができ、スペースは1台分と省スペースにも貢献し、また価格も2台分より安価というメリットもある。柴崎氏は「携帯電話やデジタルカメラなどは電源の系統が増え、それらを試験するのにマルチメータを2、3台、多いところでは10台くらい並べて検査しています。そうすると、スペースファクターは無視できないと思います。ある部品メーカーでは、今まで10台のマルチメータを使用して検査していたのですが、7352A/Eを導入したことにより5台で済み、スペースを有効利用することができたと聞いています」と言う。
同シリーズは、電源を消したとき消す前の状態を記憶することができ、電源を入れたときその状態で立ち上がる。この機能は、今までの機種にも取り入れていたがリチウム電池を使っているため、時間が経つと電池の交換が必要であるとともに地球環境問題への配慮が必要となった。そこで、同シリーズは電源を消した瞬間に、フラッシュ・メモリへ設定状態を記憶するようにしている。
「他社の製品では決まった状態でしか立ち上がらないものとか、固定の状態をいくつか選択できるタイプもありますが、当社のマルチメータでは、電源が切れたときの状態を記憶しています」と鈴木氏は言う。
 このシステムは、ユーザーから要望があり取り入れたという。40年くらい前ではマルチメータのファンクションをロータリスイッチで切り換えており、機械的なので電源を消したときの状況を覚えていた。しかし、今ではコンピュータによるコントロールなので、リセットされてしまうので設定し直さなければならない。それを何とかしようと考え、当初はメモリーをバックアップする電池を入れることで記憶させていたが、環境問題もあり、4年前の製品からフラッシュ・メモリに書き込んでいくようにした。

 

 

 

デジタル・マルチメータ7352A/E

 7352A

7352E

 

デジタル・マルチメータ7451A

デジタル・マルチメータ7461A

7451A/7461A 背面
 

 

技術者へのアドバイス

 この7352A/Eの最大の特徴は同期測定で、その機能を使うことでメリットを最大限引き出すことができる。回路設計する場合、基本的に同期測定が必須であり、ロジック回路とアナログ回路の組み合わせのとき、またはアナログ信号間の同期をとるときなどに7352A/Eは最大の特徴を発揮する。同期測定ができない2台の計測器を使って測定するとかなりのスペースを取ってしまい、普通のGPIBでコマンドが出たら同期が取れないので、単線の信号でずらした信号を出さなければならない、あるいは治具を作らなければならないなど手間になるようなところで、同期の機能を有効に使うことができる。「他社の場合、演算は何種類もありますが、演算を組み合わせることができません。当社の場合、演算の組み合わせを自由に行うことができます。たとえば、リファレンスからの相対演算値に対してその平均値を計算し、さらに比較演算をするなど、演算を何種類も組み合わせられます」と鈴木氏は語る。
 また、システム機能を強化した6桁、5桁のマルチメータ7461A、7451Aは、積分時間とサンプリング周期を任意に設定できる可変積分機能を備えている。近年、電化製品がデジタル化され、測定にかかる時間を省きたいという要望があり、特に生産ラインにおいて現在デジタルオシロスコープを使っているようなメーカーで、高速サンプリングができるならマルチメータを使いたいという声もあるという。またセンサ関係だと、たとえばクルマの対応スピードが上がると、それに対応して早く測りたい、システムのスループットを上げたいという要求が強くなっている。この高速サンプリングに加えて、積分時間を変えられるのが2004年に開発した5桁、6桁のマルチメータ7451A/7461Aの大きな特徴である。「この機能は他社にありません。最短で10マイクロ秒から最長で10秒の間で積分することができます。長い時間、積分できるというのは、パルス状の波形の平均電流や平均電圧を測りたい、あるいはアクチュエータやモータなどのようにパルス変調がかかってコントロールされる被測定物の動作試験に有効です。パルスの幅でモータの回転角や角速度が変わるのでその平均値を測りたいという要求が強くなってきています。それとサンプリングのような離散的な測定ではなく連続的に測りたいという要望もあります。可変積分機能はアナログ量で積分するので、連続的に10秒間計測することができます」と柴崎氏は話す。
 今回紹介した7352A/Eや7461A/7451Aは、特定のアプリケーションのためではなく、様々なアプリケーションで使えるようにした汎用機器である。同シリーズは過去のモデルに盛り込まれていた機能をそのまま継承し、さらに新しい機能が追加されている。その追加機能はユーザーの声を聞きながら開発したものなので、現状におけるマルチメータの集大成ともいえる。