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カー・テクノロジの進化を支える新しい計測テクノロジ

日本テクトロニクス株式会社

営業統括本部 営業技術統括部 オートモーティブ担当インダストリ・スペシャリスト 渡辺 潔

 ITSが進み、通信システムの日進月歩などにより、電子計測器における2010年までの年平均伸び率は2.7%と予測されている。電子計測器メーカーも、それぞれのビジョンを立て、新製品の開発やソリューションに取り組んでいる。

それぞれのメーカーは今どこを目指しているのか、メーカーサイドから語ってもらう『メーカー潮流(トレンド)』のコーナーを設けた。

最初は日本テクトロニクス(株)に連載で、車の技術を支える計測技術のテーマで語ってもらう。


自動車はその誕生した時から動力源として内燃機関を使用してきました。カー・テクノロジの進化はエンジン・テクノロジの進化そのものといっても過言ではありません。エンジン・パフォーマンスの向上にあわせて、エンジン・パワーを発揮できる操縦安定性、制動力のパフォーマンスも向上してきました。従来のカー・テクノロジの進化は「メカの進化の歴史」といえるでしょう。計測技術も「走り」、「曲がり」、「止まる」能力の計測、さらに快適性を追及するためのNHV(ノイズ、ハッシュネス、バイブレーション)など、比較的低速な信号の計測が主なものでした。
世界規模での地球温暖化の問題が現実のものとなりつつある今、燃費の大幅な改善は必須となりました。このためガソリン・エンジンでは可変圧縮比や給排気効率の改善、希薄燃焼の推進など、エンジン自体の効率を上げる技術開発が進められています。高速連続走行が多く加減速が少ないヨーロッパではポンピング・ロスの少ないディーゼル・エンジンの改良が、市街地走行での加減速の多い日本、アメリカでは減速時に運動エネルギを回生し再利用できるハイブリッド・カーの開発・設計が進んでおり、特に日本では普及期を迎えつつあるといっても過言ではありません。
これらのニュー・テクノロジを支えているのがコンピュータ、デジタル家電などで進化してきたエレクトロニクスです。発電機、灯火類から始まったカー・エレクトロニクスは進化を重ね、点火装置燃料噴射装置はほぼ電子化されています。これらのエンジン補機をコントロールするコントローラはかつてエンジン・コントロール・ユニット(ECU)と呼ばれていました。しかし現在ではECUは電子制御装置の総称であり、ネットワークにより統合化されています。
さらに、パワー・トレインにモータを併用したハイブリッド車ではパワー・エレクトロンクス・テクノロジが支えています。
また、安全性を飛躍的に高める「ぶつからない車」を実現するためには、レーダやイメージ・センサからのデータなどのリアルタイム処理とハンドル、ブレーキなどの制御系の完全な電子制御が必要になります。
このようなカー・テクノロジの進化にあわせて、デジタル家電、コンピュータなどの最先端エレクトロニクスの開発・設計用計測器がカー・エレクトロニクスの分野においても使用されるようになりました。
広がるスイッチング・テクノロジ
 エアコン、冷蔵庫などの家庭電化製品で養われたインバータ技術、スイッチング技術の自動車への応用が進んでいます。電気自動車、ハイブリット車の駆動源だけでなく、電動パワー・ステアリング(EPS)、各種モータの駆動、燃料噴射装置、さらに今後、ブレーキなどへの応用が見込まれます。またカー・オーディオ、カー・シアターにおけるハイパワー・アンプではスイッチング技術を応用したデジタル・アンプが実用化されています。


ハイブリッド車と計測項目


サンプル間隔とレコード長の関係

 

スイッチング回路の計測手法
下図にハイブリッド車の構成例を示します。このようなインバータ回路の効率を評価するためには一般にパワー・アナライザが用いられます。インバータの入出力の電圧・電流を計測し、効率を算出します。入出力信号はそれほど高速信号ではありませんので、比較的高精度に効率を計測できます。
器(8.0%)のプラス成長を予測。一方、幹線系は▲10.0%、光LAN・光無線LANは▲10.5%の減少を予測し、全体で3.3%の増加を予測。
ハイブリッド・テクノロジの重要なファクタがモータです。従来、モータのインダクタンスは回転角と共に線形に変化するものとされてきました。しかし最近のモータは形状が特殊になり、また設計における第一目標がトルクの最大化であるため、実際のインダクタンスは非線形な変化となります。そのためインバータの動作条件が複雑になり、インバータ/モータ全体での効率をあらゆる回転域、発生トルクにおいて最適化することは簡単ではありません。このためにはモータのインダクタンス、IGBTのスイッチング損失の詳細、安全動作領域の問題、負荷変動時の過渡応答など回路を詳細にわたって解析できる高速のオシロスコープでの計測が重要になります。
オシロスコープによる計測

従来のオシロスコープは波形のレコード長が充分でなく、また波形処理能力に限りがあったため、過渡応答全体の解析が困難で、一部分の解析から全体を推測する手法がとられてきました。しかし、評価に当たってはインバータ内部のスイッチングの様子を詳細、かつ長時間にわたって動作確認することが求められます。
ではどの程度のレコード長が必要になるのでしょうか。スイッチングしている電圧、電流波形を取り込むにはインバータでは100MS/s程度のサンプル・レートが、高速化するスイッチング回路では500MS/s程度のサンプル・レートが必要になります。
100MS/sのサンプル間隔は10nsですので0.1秒間記録するには10Mポイントのレコード長が必要です。

0.1(秒)÷10ns=0.01×109=10M(ポイント)

最近の高性能オシロスコープにはチャンネル毎に10Mポイント以上のレコード長を持つものがあります。このような計測器を用いれば比較的長時間にわたって高速現象を記録することができます。
しかし、10Mポイントにもおよぶレコードを計算することは容易ではありません。PCへのデータ転送にしても一般的なファイル転送では転送時間がかかります。このため専用の解析ソフトウェアを持つ、ウィンドウズ・ベースのオシロスコープも登場しています。

パワー解析専用のソフトウェアを持つオシロスコープ

スイッチング回路計測上の問題点(電圧スイングが500V程度の場合)

電力損失算出のアルゴリズム

計測精度を妨げる要因

オシロスコープによるスイッチング回路の計測は精度が出にくい、という声をよく耳にします。高速オシロスコープの電圧分解能は一般に8ビット程度です。入力のダイナミック・レンジぎりぎりの信号を入力した場合でも1/256の分解能になります。このため、スイッチング・デバイスのオン電圧を正確に計測することは困難です。また、垂直軸増幅器、電圧・電流プローブの変換精度、ノイズ、DCオフセットやドリフトの問題など、計測精度を高めるためには様々な計測テクニックが必要です。


スイッチング損失計測における新手法

スイッチング回路における損失の一要因が導通損失です。一般に導通損失を計測するには、ON抵抗によって生じる電圧降下分をオシロスコープの電圧プローブで検出、またデバイスを流れる電流を電流プローブなどのセンサで検出し、両者を積算することで電力波形を求め、損失を算出します。しかしスイッチング・デバイスの改良が進んだ結果、ON電圧は減少しており、前述のように高速オシロスコープの電圧分解能では充分な分解能をもって計測することは困難です。

そのため、「パワーMOSFETではON抵抗値はドレイン電流の広い範囲にわたって一定」、または「IGBTではVce-satがコレクタ電流の広い範囲にわたって一定)」という性質を利用し、

導通損失=ドレイン電流2×ON抵抗値 または 導通損失=コレクタ電流×Vce-sat

と考えます。オン/オフ・トランジション部分は従来通り、電圧、電流波形より損失を算出します。またスイッチング・デバイスがオフ状態では電流は流れていませんが、計測系のドリフト、ノイズにより微小電流が計測されてしまうため、本来存在しない電力が計算されてしまいます。このためオフ状態では電力をゼロとみなす必要があります。
 上記の計算を効率良くおこなうには専用のソフトウェアが威力を発揮します。

 


適切なプローブの選択と補正

スイッチング回路の計測では被計測回路とオシロスコープとを結ぶプローブの選択には細心の注意を払う必要があります。特に電流プローブの選択には充分な配慮が求められます。電流プローブはその構造上、電流検出部にコアを使用しているため、コアの飽和による許容電流値があり、この制限は直流、交流、パルス波によって異なります。実際に計測するスイッチング電流は多くの高調波を含むパルス電流です。パルス電流における許容入力はパルスの繰返し周波数とデューティ比によって変わりますので注意が必要です。
また、スイッチング回路の計測では電圧、電流プローブという形式の異なるプローブを使用するため、プローブ個々のもつ遅延時間に考慮しなければなりません。プローブの伝播遅延時間については高速信号計測時には注意が払われますが、スイッチング回路は比較的低速であることから注意を払うことを怠りがちです。しかし電流プローブは機種によっては100ns前後の時間遅延があるため補正が必要です。補正が行われないと、電圧、電流を積算する場合、時間的に異なるポイント同士を演算することになり、オン・トランジション、オフ・トランジションにおけるスイッチング損失の計測に大きな誤差を生じる要因となります。

電圧・電流プローブ間の時間を正しく補正した場合

電流波形が10ns遅れた場合

 

ダッシュボードのシステム例


車載ネットワークの計測における諸問題

自動車が「走る組込みシステム」とよばれる今日、車載ネットワークはシステムの神経網といえるでしょう。
自動車で多用されるCAN、LINなどのネットワークは一般に使用されているイーサネットやUSBなどに比べれば伝送速度は低速です。ハイスピードCANバスでも500kbpsです。そのため物理層における問題は無いように思われますが、実際は多くの問題を内包しています。
自動車ネットワークでの問題は長いケーブル長とノイズです。ECUは自動車の各部に分散しており、そのためにケーブル長はかなりの長さになり、ネットワーク・ケーブルを含めたワイヤ・ハーネス全体の重量は4〜50kgにおよんでいます。自動車自身がイグニション・システム、インバータなどのノイズ源を持っているため、ネットワークの置かれている環境は劣悪なものといえます。
このため、CANバスでは同相ノイズ除去効果のある差動伝送方式を採用していますが、外来ノイズに起因するトラブルは無視できません。また、伝播遅延やECUの反応時間のばらつきを正確に計測するためにもオシロスコープによりネットワークの生の波形を計測する要求が高まっています。
自動車システムにおいては種々のバスが使用されています。例えばダッシュボード・システムではシステム内部の通信にSPIなどの低速シリアル・バスが用いられます。システムの検証においてはCAN/LINバスのみならず、それらと協調関係にあるこれらのバスを同時に解析することが求められます。

また情報用バスとしてはMOSTおよびIEEE1394の自動車バージョンといえるIDB1394が代表格ですが、伝送レートが高速であるために伝送波形自体の品質を評価する必要があります。

ロングレコード長のオシロスコープ
(CAN、SPI、I2Cなどのバス解析が可能)


イグニションの波形取り込み


広がるロング・レコード長の応用

最近のオシロスコープではロング・レコード長が一般化しつつあります。前述のスイッチング回路や車載ネットワークの解析に威力を発揮することは当然ですが、他にも多くの応用例があります。
たとえばクリーン化、高効率化の進むエンジンでは圧縮比が高まりイグニション・システムではさらに高電圧で確実、安定したな点火能力が求められます。まれにしか発生しない不整爆発でも排気ガス中に有害物質を排出してしまいます。
ロング・レコード長を持つオシロスコープのメモリを分割し、トリガ信号毎にデータ取込みを行えば、メモリを有効的に使用しながら必要な情報を効率的に取り込むことが可能です。オシロスコープによっては全波形の平均波形や、ずれの最大値を瞬時に表示できるものもあります。

10Mポイントのデータは画面にして2万画面に相当するため、データを目視で確認することは極めて困難で時間のかかる作業になります。このためにデータ検索機能を持つオシロスコープも登場しています。
エンジンの失火計測という場合を想定してみましょう。失火が発生した場合には、気筒内圧力センサからの波形のピーク値は明らかに低くなります。オシロスコープの検索機能でこの部分を簡単に見つけ出すことができます。

電子化が急速に進む自動車では今までは無かった様々な問題が起こっています。従来の計測環境においては解析の困難であったことが、最近のオシロスコープの高性能、高機能化、計測の自動化により解決できるようになりつつあります。しかし自動車における計測項目の多くがアナログ計測であることは忘れてはなりません。計測精度を高めるためには「より良い計測器」、「より良い解析手法」に加えて計測器を使いこなせる「優れた計測テクニック」を習得することが大切です。