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地上デジタル放送用受信マージン測定器
ISDB-T MARGIN CHECKER 『MODEL5283/5284』

 

日本通信機株式会社

 
放送と通信の融合技術を強みにする日本通信機。同社では先ごろ、日本放送協会(NHK)と共同で、地上デジタルテレビジョン放送の受信信号のレベル、C/N比、簡易BERなど、デジタル受信機が正常受信できる受信限界までの余裕度を測定できる地上デジタル放送用受信マージン測定器、ISDB-T MARGIN CHECKER『MODEL5283/5284』を開発、販売を始めた。コンパクト型受信マージン測定器として初めて等価C/N測定機能を実現(MODEL5283)した話題の製品だ。開発担当の技術部放送グループユニットチーム主管の矢作勲氏に技術のポイントについて聞いた。

技術部放送グループユニットチーム 主管
矢作 勲

 

 

 

向こう3〜4年が勝負の製品

今から3年後の2011年7月から、日本のテレビ放送は全局、現在のアナログテレビ放送からデジタルテレビ放送に移行することが予定され、整備が進んでいる。地デジ放送は、従来のアナログ方式と比べて、より高品質(ゴーストや雑音のない)な映像と音声を受信することができる新しい放送だ。また、デジタルハイビジョンによる高画質・高音質番組に加えて、双方向サービス、高齢者や障害のある方にやさしいサービス、暮らしに役立つ地域情報などが提供される。
 だが、地デジ放送の受信にはちょっとした注意が必要だ。アナログ放送は受信状態が悪化すれば段階的に映像が劣化するが、デジタル放送では受信状況の悪化がある程度進むと、その後はわずかな劣化でも急激に受信不能になってしまうことがあり、エラーレートを測定するだけではデジタル放送の受信状態を的確に把握することは難しい。そこで、受信障害(エラー)が発生するまでのマージン量を検出する測定器が必要になる。
 こうした中、注目されているのが日本通信機がNHKと共同開発した地デジ受信マージン測定器。地デジ放送の受信信号のレベル、C/N(キャリア対ノイズ)比、簡易BER(ビット誤り率)のほか、デジタル受信機が正常受信できる受信限界までのマージンを簡単に測定できる ISDB-T  MARGIN CHECKER『MODEL5283/5284』という製品である。デジタル放送に切り替わるまでの向こう3〜4年が勝負という、測定器としては異例の製品だが、それだけに市場開拓にかける同社の意気込みは強い。

 

 

MODEL5283

 

 

 

 

MODEL5283の側面写真

 

 

顧客ニーズがきっかけ

 同社はテレビ放送施設用機器をはじめ、ケーブルテレビシステム機器、電波天文関連設備など、放送・通信分野をサポートする機器メーカー。中でもテレビジョン送受信用測定器の開発歴は古く、創業から2年後の1951年には試作研究を開始。1959年には、NHKよりテレビ放送開始以来の放送施設用測定器作りの功績が評価され表彰を受けている。
 しかし、地デジ放送関連の計測器の開発では、若干出遅れた感があった。1970年代以降はどちらかというと、放送のインフラ系機器の開発に軸足を置いていたためである。ところがその間にも、「NHKさんをはじめ、放送局や放送機器を取り扱う企業には当社の計測器に慣れ親しんだ方々が多くいて、さまざまな問い合わせや相談事が持ち込まれていました」と矢作勲氏はいう。
 そこで数年前から、再び計測器の開発に力を注ぎ始めた。そこでのポリシーは「お客様のニーズを徹底的に聞くこと」。今回の地デジ受信マージン測定器の開発も、こうした顧客ニーズへの対応がきっかけとなって生まれたものである。

 

新アルゴリズムの等価C/N測定機能を装備

 市場にはすでに、受信マージン測定器と名の付く製品が多数存在する。デジタル波の受信レベルが合うかどうかを調べるレベルチェッカならば、2〜3万円のものからある。ただし、レベルチェッカの場合は、「電波が届いているか、そうでないか」は分かるが、信号の品質を測ることはできない。一方、レベルチェッカとは反対に、ハイエンドの製品としてMER計測器というものがある。MER(Modulation Error Ratio=変調誤差比)とは、デジタル放送波のデータシンボル座標のばらつきを数値化した値のことで、ノイズや歪みの影響が少なく受信状態が良好であるほど大きな値になる。主に送信機側のデジタル波の品質測定に使われるが、この方法を用いて受信側で使えるようにした測定器もある。しかし、MER測定器でも受信した電波の品質をすべて把握するのは難しい。
 そこで重要になるのが等価C/Nの測定である。たとえば、建物や地形の影響による反射・回折・散乱などで発生した遅延波(マルチパス波)が受信点で直接波と合成されると、信号波形に歪みが生じ、レベルが十分であっても受信信号の品質低下を招き、受信不能にもなる。
 このような現象はマルチパス障害と呼ばれ、アナログ放送においては、ゴースト画像として視認可能であるが、デジタル放送の場合は受信画像での確認が不可能である。このようなマルチパス波やその他のさまざまな干渉に対して、電波品質を数値で表すのが等価C/Nである。今回、地デジ受信マージン測定器を開発した大きな目的の一つは、この等価C/N測定機能を付加することである。
 その原理はおよそ次の通りである。まず、受信信号に強制的に雑音(ガウスノイズ)を付加して、ビタビ復号後のBERが2×10-4になるように設定し、この時のガウスノイズ電力値をNとするC/N値(付加C/N)を求める。この付加C/Nと所要C/Nとの差をEND(等価ノイズ劣化)と定義。一定のBERまで劣化するときのノイズ量から受信システムにどの程度のマージンがあるかを把握する。つまり、ノイズを付加することで、受信不能となる誤りが起こるレベルを調べ、それにより受信品質を求めるという方法である。
 「等価C/Nを測定するためには、従来は筐体が3〜4個に分かれたような大掛かりな測定器群を必要としました。また、測定時間も1分近くかかるため、フィールドで電界が漂動するものの測定は困難でした。今回の製品は、測定のキーとなるノイズ発生器をはじめ、必要な機能をコンパクトに内蔵し、高速アルゴリズムの採用で短時間で計測できるようにしたところがミソです」と同社ではいう。なお、等価C/N機能を内蔵するのはMODEL5283で、普及版のMODEL 5284には等価C/N機能は含まれていない。

 

 

等価C/N画面

受信マージン、信号のBERなどの表示画面

 

 

マルチパス妨害環境下の等価C/N測定とマージン測定の比較データ(系統図)


 

  

中継局の受信点探しやアンテナの方角設定に便利

受信チャネルは、地上デジタル放送のUHF帯(470〜770MHz)のほか、VHF・MID帯(90〜222MHz)、SHB帯(222〜470MHz)などオールバンドに対応しており、周波数変換パススルー方式の共同受信施設なども測定できる。また、イーサネット・インタフェース(MODEL5283)を装備し、外部のパソコンからの制御やデータ取得も可能である。
 顧客対象は放送事業者やCATV事業者のほか、SI(システムインテグレータ)事業者、町の電気工事業者など。放送事業者やCATV事業者では、中継局を作る際の受信点を探すときなどに最適だという。また、電気工事事業者の場合、地デジを受信するためにアンテナをどの方向に向け、どの高さに設定すればより良好な受信が可能かが分かる。電波には直接波だけでなく、反射波もあり、場合によっては反射波があった方が良いケースもある。特に、反射波が多い都内などでは、アンテナをタワー方向に向けるだけでなく、どこに向けたら一番良いかを探すのには最適だ。
 「これからテレビの買い替え需要が増えると思いますが、それに伴い『思うように映らない』というケースも増えることが予想されます。あるセットメーカーさんは『地デジが受信できないと、お客様からわれわれのサービス部門にクレームが入ることがある』と嘆いていました。アンテナを設置するとき、デジタル波のことを熟知している電気工事業者さんならともかく、デジタル波の受信アンテナの設置に慣れていない人が設置すると、上手く映らないことがあるのです。その点、当社の製品を使えば、こうした問題を回避することができます」(矢作氏)。

 

 

開発に2年以上を要す

 測定器の重量はバッテリ込みで1kg少々という軽さ。電源は単3電池で4時間連続して使用できる。このため、戸建て住宅や共同受信施設のデジタル化など、屋根裏の狭隘スペースでの作業や屋外作業を伴う整備に威力を発揮するとともに、受信マージンが容易に測定できることにより、より安定した受信システムの構築が可能になる。
 「今回の製品開発には、2年以上を要した」と同社ではいう。屋根の上に持って登れるポータブル性と同時に、測定の高速性と正確性が要求されたためである。「今までの当社の製品開発なら、まず性能を規定し、その後にそれに見合った機器の容量に応じて金属などで筐体を作ります。しかし今回は、先に大きさが決まり、ポータブル性を持たせるために金属ではなく不慣れなABS樹脂で筐体を作ることになりましたので、当初は設計者として、やや戸惑う面がありました」と矢作氏はいう。
 このため、構想や製品開発には約1年を要したが、それ以上に時間を要したのは製品試験。同社の製品すべてに共通することだが、測定器に対する多くの人の信用を裏切らないために、さまざまな測定器を使って試験を繰り返したという。
 「この評価については、共同開発を進めたNHKの方からもさまざまなフィールド実験を通じてアドバイスをいただき、改良を重ねてきました。現在、放送事業者様やCATV事業者様から多数の問い合わせをいただいています。多くの方にご愛用いただける製品であることに間違いありません」と力強い。

 

 

付属の透明バッグに入れたまま操作が可能