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1台で多数の通信方式に対応する携帯電話機用マルチUEテスタ
『NJZ-2000シリーズ』

 

日本無線株式会社

 

日本を代表する通信機器メーカーの日本無線。通信事業を支える計測器の主力が携帯電話機用マルチプラットホーム移動機テスタ『NJZ-2000シリーズ』。製造ラインや修理を行うサービスセンタ向けに開発された製品である。従来、携帯電話機の検査では通信方式ごとに多数の計測器を用意する必要があったが、同製品は1台でGSM、W-CDMA、CDMA2000などの通信方式に対応し、ユーザー企業では設備資金を抑制できる。通信機器事業本部計測器ユニット長の内藤淳志氏と同ユニット主任の高桑哲也氏に開発経緯や市場の反応などについて話を聞いた。

 

通信機器事業本部 計測器ユニット長
内藤 淳志

通信機器事業本部 計測器ユニット 主任
高桑 哲也

 

 

 

長い歴史を持つ計測事業の主力製品

日本無線の事業は、通信、海上、システム(ソリューション)の3分野に大別される。通信用計測器事業の歴史も古く、事業開始からすでに半世紀近くを経過する。同社によると「自分たちの作った通信機器を検査するために、テスタを作ったのが始まり」だという。 1960年代以降に手掛けたシグナルジェネレータやプロトコルアナライザなどが同社の計測器の先駆け製品である。
 もっとも、初期の製品は手作りによる一品物が中心で、マスプロダクトに軸足を移したのは1990年代に入り、携帯電話機が登場したあたりからである。現在、計測器事業には携帯電話機用テスタのほか、フィールドでの電波環境を室内で再現するフェージングシミュレータ、地中埋設物や鉄筋の非破壊検査を行うRCレーダなど、特色ある製品群がある。だが、何といっても売上高に占める割合が大きく、多くの人的資源を投入しているのが携帯電話機用テスタの分野だ。
 当初の製品は、サービスショップにおいて顧客から持ち込まれた製品が「正常か異常であるか」だけを簡単にチェックするものだった。しかし、その後携帯電話機市場を取り巻く環境は大きく変わる。1台の電話機で世界中どこでも通信できる時代になるとともに、各国の事情もあって、複数の通信方式が用いられるようになった。このため、携帯電話機メーカーでは個々の通信方式に対応した端末や複数方式に対応したデュアル端末を製造。一方、ユーザーの保守窓口であるサービスセンタでも、1つの拠点で異なる通信方式の端末をメンテナンスすることが必要になった。

 

  

コンセプトは共通プラットフォーム

 こうした背景のもとに『NJZ-2000シリーズ』は誕生した。同製品は多様な通信方式へ容易に対応できるよう、マルチバンドの無線通信を基本に、OSに汎用性のあるソフト、システムバスについても汎用規格を採用、モデム部はソフトウエアモデムを実装し、拡張性、柔軟性に優れるシステムで構成する。
 「かつてはさまざまな製品を作りましたが、お客様は800MHz対応から2GHz対応のものまで、あらゆる機種を取り揃えなければならず、結果として、箱ばかり買わせることになっていました」(内藤氏)。
 そこでNJZ-2000ではプラットフォームの概念を取り入れた。このため、『シリーズ』と名がつくものの、ベースとなるのは1機種のみで、計測器を購入後、新しい方式が現われても、基本的にユーザーはソフトウエアを入れ替えるだけですむ。ソフトの追加はインターネット上からダウンロードすればよい仕組みだ。
 最初のバージョンは2004年8月にリリースしたGSM/GPRS対応版。GSMは、デジタル携帯電話に使われている無線通信方式の一つで、ヨーロッパやアジアを中心に100カ国以上で利用されている。800MHzの周波数帯を利用するデジタル携帯電話の事実上の世界標準である。またGPRSとは、GSM方式の携帯電話網を使ったデータ伝送技術で、第2.5世代と呼ばれる技術の一つである。パケット単位でのデータ送受信が可能であり、通信速度は最大115kbpsとGSM(最大9.6kbps)よりも高速になる。
 最初のバージョンこそGSM/GPRS対応に限定したものの、プラットフォーム化の設計思想は最初から貫かれた。その証拠に、半年後の2005年2月には第3世代携帯電話の通信方式といわれ、最大384kbpsのデータ伝送能力をもつW-CDMA方式対応版をリリース。さらに1年後の2006年には北米方式と呼ばれるcdma2000方式対応版をリリースした。その間には、EGPRS(GSMの高速通信版)、HSDPA(3.5世代高速データ通信版)も加えた。
 これらの新しいバージョンは、原則としてソフトウエアで提供される。Cdma2000のように専用のモデムボードに差し替える場合でも、箱ごとそっくり取り返るのではなく、機能の一部を拡張するだけでよい。顧客からすれば初期投資を無駄にしなくてすむわけだ。

 

NJZ-2000

 

 

製造時の信頼性試験からサービス拠点での故障診断まで

 NJZ-2000がユーザー対象とするのは、携帯電話機工場の生産ラインとサービスセンタ。生産ライン向けには信頼テストや出荷前テストなどの自動テストを、サービスセンタ向けには故障箇所の特定が可能となる測定精度でのマニュアルテストを搭載している。このほか、サービスショップ向けには自動試験モードを用意し、プロトコル・無線部性能試験を簡単に行えるようにした。
 これらの中でも同社がウエイトを傾注するのは工場の生産ラインでの計測需要だ。「当社では『マニュファクチャリング ジャスト イナッフ』と呼んでいますが、主に携帯電話機のメーカーを対象にR&Dフェーズを除く生産や調整、修理などの製造工程で使っていただくことを目的にしています」と内藤氏は話す。具体的には、アセンブルでPC盤が作られて以降の組み立てまでのプロセスを指す。
 同製品は幅330、高さ145、奥行375(mm)のコンパクト設計の上、質量は8kg以下という軽さ。にもかかわらず、ピーク電力測定やパワーランプ、バーストタイミング計測、周波数誤差、位相誤差計測など生産ラインにおける計測に必要なすべての機能を満たしている。
 R&Dフェーズを対象から除外したのは、これらのフェーズでは価格にして1000万円クラスのハイエンド製品が使用されるケースが多いためだ。「このフェーズの利用者は、一度機種や使い方を決めると、なかなかほかの機種に乗り換えようとしないからです」と開発担当の高桑氏はいう。
 実はNJZ-2000が発売されるまで、生産ラインでもR&Dフェーズと同様の高価なテスタが使われていた。しかし生産ラインで使用するのは、計測器に装備されている多数の機能のうち、ほんの一部の機能であることがわかった。他方、多くのメーカーは最終的には携帯電話機のコストダウンを狙っている。そうであれば、「生産ラインに必要な機能を100%盛り込んだ安価な機種を提供した方が良いと考えたのです」(高桑氏)。ピラミッドの頂点は狙わず、中・下流プロセスで多数、使用してもらう戦略に徹したのである。

 

 

 

NJZ-2000の自動テスト(簡易表示画面)

 

テスト画面(GSM)

 

 

 

 

テスト画面(W-CDMA)


 

  

小型で安価ながらハイエンド製品なみの性能を確保

ただし、製品は無駄な機能を省いて安価にしたことだけをウリにしているわけではない。「あまりセールストークには使っていませんが、GSMタイプを例にしますと、150万円の価格で1000万円ほどするテスタとほぼ同等の性能があります」と高桑氏は胸を張る。
 製品開発で苦労したのは、低価格で提供することと、ソフトウエアのアップ対応だったという。換言すれば、将来にわたって同じハードウエアを使い続けることを前提にするため、それに見合う高性能、高機能なハードウエアを格安に作ることだった。「特に符号化や復号化を行うモデムの部分には細心の注意を払いました」と高桑氏。
 GSM方式対応版をリリースした後も改善を重ねた。生産ラインではタクトタイムが最も重要視される。しかし、2004年のバージョンでは、個々の計測項目を1つずつシーケンシャルに測る方式であったため、スピード面での課題が残った。これに対し、現在のバージョンでは、同時計測機能を盛り込み、タクトタイムの改善を図った。
 改善策としてさまざまなアルゴリズムが講じられているが、たとえば、DSPの機能を活用することで、画面とのやりとりを介するようなオーバーヘッドをなくし、装置内部で計測できるようにした点が挙げられる。計測中に画面を逐一呼び出すのではなく、すべての計測が終わった段階で、処理結果をまとめて画面に表示するというアルゴリズムだ。もっとも、このようなスピード以外の面では、スタート時点の設計が良かったためか、これまで大きなハードウエア上の変更はしなくてすんでいるという。
 「大きなテスタだと何台も買うわけにいかないので、個人があちこちに持ち出すことはできないでしょうけれど、NJZ-2000は小さくて、持ち運びに便利ということで、『今日は恒温槽のある場所、明日は自分の机の上』というようにフレキシブルな使い方がされています」(高桑氏)。
 黒色を基調にしたデザインは、実験室に置いたときに目立たせるためだが、ほかにも「黒は他の色には染まらない」、つまり裁判官のように正しい判定を行うことをイメージ付ける狙いもある。
 「計測器はパソコンと一緒で、購入した瞬間から次の機能が欲しくなるもの。これまではさまざまな要求がありましたが、バージョンアップを続けたことで、今はお客さんの望むテストセットに近づくことができたと自負しています」(内藤氏)。今後の課題は、使い勝手の向上とさらなるコストダウンだという。

 

 

HSDPA/W-CDMA方式計測が行えるNJZ-4000